この記事は「ピクサー 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話」の書評記事です。
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本書はピクサーの元CFO(最高財務責任者)であるローレンス・ロビーがどうやって赤字続きのピクサーを黒字化し上場させディズニーに買収させるのかという物語です。
1994〜1995年
1994年にロビーはジョブズからピクサーに誘われるのですが、ジョブズの依頼は
- ピクサーを早く上場させろ
- 早く黒字化させろ
といったものでした。
当時のピクサーはレンダリングソフトの販売とCM制作、そして後の「トイストーリー」を製作中で事業計画もなく赤字続きで毎月ジョブズに小切手を切ってもらっていたおかげでなんとか倒産せずにすんでいるという状況でした。
ロビーをピクサーに誘っている時点でジョブズの投資額は5000万ドル近くになっていたようなのでジョブズとしては少しでも早く楽になりたかったのでしょう。
将来有望な事業がない
ピクサーのレンダリングソフトは1本3000ドルでいい時は年間1000本売れていたようなのですが、サポートに優秀な社員の時間を奪われるし顧客数が少なすぎて儲からないということでロビーがジョブズにレンダリングソフトの販売を辞め自社内専用ソフトとすることを提案します。
さらにマイクロソフトとシリコングラフィックスを特許侵害で揺さぶりライセンス契約を結ぶことでキャッシュを手に入れました。
次にCM制作ですが、ピクサーが生み出すCMは評価が高かったのですが利益を出すことができないし将来性もないということでこれもロビーの提案であっさり辞めました。
残るは映画制作ですがこれもディズニーとの悲惨な契約のためお先真っ暗な状態です。
ディズニーとの悲惨な契約内容
- 契約の対象は映画3本
- 契約が終了するのは3本目が公開された6ヶ月後
- ディズニーに提示した映画内容は契約終了するまで他社に提示してはならない
- ピクサーのアニメーション部門はすべてディズニー専属とする
- 制作費用は定められた上限まではすべてディズニーが負担
- 映画の収益でピクサーの取り分は10%に満たない
- 続編の製作にはディズニーの許可が必要
- 続編は公開されても契約対象の3本には含まれない
- etc
これらの契約内容はとても悲惨なものです。
「美女と野獣」「ライオンキング」「アラジン」の史上トップ3のアニメと同等の収益(国内で1億〜1.5億ドル、世界で2億〜3億ドル)をあげてもピクサーには1600万ドルていどしか入らない。
しかも90分の3Dアニメは完成するまでに3〜4年も掛かるのでディズニーとの契約が終了するまでに最短でも10年近く掛かります。
しかもトイストーリーが大ヒットしたとしてもトイストーリー2の制作には許可がいるし、トイストーリー2はディズニーが制作することになる(ウッディやバズがディズニーに奪われる)というリスクもあります。
さらにトイストーリー2をピクサーが制作できたとしても続編は契約対象の3本に含まれないためトイストーリー2の制作はこの悲惨な契約期間が延びることを意味します。
ディズニーに提示した映画内容は他社に提示してはならないということはディズニーに提示せずに他社とより有利な契約で交渉すればいいと思うかもしれませんがピクサーのアニメーション部門はディズニー専属となっているので他社におもしろい映画内容を提示できたとしてもピクサーは制作することができません。
感想
こんな状態からピクサーは上場し、トイストーリーを大ヒット(売上は国内で1億7000万ドル)させ、その後も制作したアニメはどれも大ヒットという偉業を成し遂げます。
トイストーリーを大ヒットさせた後にピクサーはディズニーと契約修正するために戦略を練る場面があります。
ディズニーからすればすでに契約を結んでいて契約終了までピクサーは後2本の映画を公開させなければならないという状況なので契約修正に応じる義務はないのですが、それでもロビーとジョブズはディズニーとピクサーの強み・弱点をホワイトボードに書き連ねながら何度も話し合い戦略を練り続け勝負を仕掛けます。
結局、ピクサーがほぼ望んだとおりの契約に修正されます。
これはジョブズを含めた創業メンバーとロビーがピクサーブランドを守るためならディズニーと無縁になってもいい、悲惨な契約を終了させるまで続けても構わないという正しいことをした結果でした。
正義が勝ったという感じです。
私はピクサー創業メンバーのエド・キャットムルの「ピクサー流 想像するちから」も読んでいたので内容が被るところが多くておもしろくないんじゃないかとも思っていたのですが読んでみるととてもおもしろかったです。
「ピクサー流 想像するちから」はピクサーファンが喜びそうな制作現場のことや映画の裏話を知ることができます。
「ピクサー 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話」はピクサーの経営戦略を知ることができジョブズの登場回数が多かったですね。
どちらもおもしろくておすすめの本です。
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